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鬼課長
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作者:邵陽 文章来源:贯通论坛 点击数 更新时间:2004-7-2 16:09:00 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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彼はいつも真っ白な作業服を身にまとい、両手をズボンの後ろポケットに入れています。黒い顔と小柄な体。アルバイトの学生達は、その姿を目にした途端、思わず緊張感が全身に走ります。 彼はときどき顔に笑みを見せますが、その笑顔は刻まれたシワがはっきり見えるようなものです。真っ白な歯と真っ黒な顔がとても対照的で、少し不自然さを感じさせます。 若い社員達にとっても、彼は悪魔のような恐ろしい存在です。彼の前では手足の置き場所さえ分からなくなるほど、若い社員達も彼のことを恐れています。 とはいえ、彼はアルバイトの学生達に怒鳴ったことはありません。今までに学生達が彼から言われた最も厳しい言葉は「もう明日来なくていい。」でした。 彼が今回のお話の主人公であり、ある工場の生産課長です。(以下、彼のことを「鬼課長」と呼びます。) ある日のことです。その日の仕事を終えたアルバイトの学生達は、それぞれ洗剤をつけたブラシを持って作業場の掃除を行っていました。 おしゃべり好きなSさんは、長いブラシを持って掃除をせずに周りにいたの男子学生達とおしゃべりをしていました。 しかし、思いによらないことに、鬼課長は真っ暗な二階の会議室の窓から作業場のアルバイトの仕事ぶりを監視していたのです。 彼は10分くらい黙って監視した後、獲物を見つけた狼のように、静かに素早い足取りで作業場に入ってきました。 彼は真面目に掃除をしているSさんの前に来て、下水道口を指差して、「君!ここを掃除せい!」と指示しました。 Sさんの名前を知っているのに、わざわざ「君(キミ)」と呼ぶのは、日本人が相手を軽蔑する際に用いる表現の一つです。 Sさんは末っ子のせいか、女の子とはいえ、非常に気が強いタイプです。ですからSさんは、「やだ!このフタは重すぎて動かすことができないよ。」と言い返したのです。 鬼課長は隣にいる男子学生を呼びつけて彼にフタを空けるよう指示しました。フタが開くと、下水道ですから少し臭い匂いがします。 鬼課長は下水道口にかかっている網を指しながら、「中のゴミを出して!」と、再びSさんに指示しました。「ちょっと汚すぎるんじゃあない?これは男の仕事でしょ!」と相変わらず強気なSさんです。 鬼課長の顔には何の表情もありません。「では帰って下さい。もう明日来ないで良いですよ。」と鬼課長は言いました。けれども、その言葉に威喝されないSさんは、「こっちも来る気はありません!」と一言吐き捨てて工場を後にしたのです。 作業場には1分ごとに新しい製品が出てくる生産ラインが一本あります。スピードが遅いため、そこに配属される作業員は退屈のあまり居眠りしそうになります。 一方では、資源を効率的に利用するために、廃棄された包装用のビニール袋をひとつひとつ結んで紐の代わりに使う方法が考え出されています。 ある日、鬼課長は、そのラインを担当している学生に、「何もせずに立ってるんじゃない。紐を作れ。自分の必需品は自分で準備しなさい。」といいました。 以降、このヒマだったラインを担当する人は、絶え間なくこの新しい仕事(紐づくり)をしなければならなくなりました。 この日、新人社員が担当するラインに問題が起きました。鬼課長は即座に生産ラインを止めることはしませんでした。 ラインを止めずに彼はアルバイトの学生達を呼んできて、みんながラインの奥から流れてくる製品を取り出して、真ん中の問題個所をスキップして、次のラインに運ぶように指示したのです。 こうして人の手がベルトコンベアに代わって次々と製品を次のステップに運んでいきます。あいにくその日は人手が足りなかったので、そばに立っている鬼課長は大きな声で「速く走れ!もっと走れ!」と叫んでいます。 ほかの日本人社員もアルバイトと同様に走っていたのですが、アルバイトの学生達はなんだか屈辱的な扱いを受けたように感じたのでした。 バブル崩壊後であっても、日本の会社の伝統的行事である年末の忘年会は継続されています。アルバイト達も忘年会に参加します。 忘年会の幹事は事前にカラオケボックス付きの宴会場を予約しておきます。忘年会当日、アルバイトの学生達は、会社の人と一緒に宴会場に行き、思う存分歌ったり食べたりします。 でも、毎回お酒に夢中になる人が多く、歌う人は少ないような状況です。ですから、カラオケは鬼課長と副課長及び工場長といった歌マニアに殆ど独占されてしまいます。 中にはエロっぽい歌もたくさんあります。テレビの画面に上半身が裸になっている女性の姿が映し出されると、男子学生達は特に何ともないのですが、女子学生はあまりにも恥ずかしくてみんな目を覆ってしまいます。 女子学生の困惑した表情をみる時が鬼課長の最も得意な時でもあります。しかも、彼はアルバイトに対する時だけではなくて、社員だけの忘年会の時でも同じ様子だそうです。ですから、学生はあまり文句を言えないのです。 飲み会の時に限り、無礼講ができるのは日本の常識です。ときどき学生が鬼課長とおしゃべりをします。例えば学生から「中国に遊びに行ったことがありますか?」と聞かれた鬼課長は、よくこういうふうに答えます。 「今まで何十人もの中国人留学生がうちの工場で働いてくれたよ。俺が工場で一番厳しい人だと思われているようだから、もし俺が中国に旅行に行ったら、きっと前に俺に怒られた中国人に殺されるだろうね。俺は自分の身の程を知っているからねぇ。中国に旅行なんて行く訳がないでしょ。」 たまに彼は自らの掌を学生達に見せる時があります。彼の手はとても特別な形をしています。親指は特に太くなっています。掌は殆ど四角形に近い形をしています。 学生達の不思議な顔をみて、彼は「俺は北海道の酪農農家で育った人間だから、子供のごろからずっと牛乳を絞ってきた。なので、時間が経つにつれて、今のような掌の形になったんだ。俺の大学は北海道酪農大学なんだよ。」というような説明をするのです。 その後、何度か生産課長の交替がありました。後任の生産課長と付き合って行く中で、学生達はもとの鬼課長がそれほど悪い人間ではなかったことが解りました。 例えばアルバイトは通常午後の四時からの出勤となりますが、注文の少ない日の場合には学生が作業場に入ってまもなく生産が終わってしまうことがあります。 鬼課長は学生に少しでもお金を稼がせるために、帰らせずに掃除等の仕事を与えます。 しかも「きれいに掃除しなさい。作業場の隅から隅までちゃんと掃除せい。」とよく指示します。 時には学生に、仕事のまだ残っている作業場に手伝いに行かせたりもします。掃除だけで2時間くらいかかる時もあります。このことにより、少なくとも学生が3時間の仕事ができるようになっているのが、暗黙の了解でした。 逆に忙しい日で人手が足りなかった場合は、鬼課長自身も作業の手伝いをします。課長とはいえ、アルバイトの学生達を食事に行かせるために、学生と交替して仕事をするときも少なくなかったのです。 元工場作業員の彼は、作業場にあるすべての機械を熟知しています。なので、機械を操縦する社員に代わって仕事することもあれば、学生に代わって仕事することもあります。 しかも通常は一旦やり始めたら、すべての人が食事を取り終える時間中(約2、3時間程度)も続けることになります。 彼は日本人であれ外国人であれ、人を公平に扱うことをしました。この点は彼の優れた点といえます。 それに彼は厳しい人なので、ごたごたを引き起こしたがる日本人の社員でも、彼がいる間はおとなしくなっているのです。 また、この出来事から彼の人柄をさらに分かってもらえることと思います。 ある日、「そのうちに君と君の親戚のクビを切るぞ。」と鬼課長は、ある学生に冗談半分で言いました。 普段この学生は鬼課長と仲がとても良いのですが、急にそんなことを言われたので少し頭にきてしまいました。そこで、あまり仕事の出来ない同僚を指差して、「あのような人こそクビにすべきじゃないでしょうか。」と彼はすかさず鬼課長に口答えをしたのです。 そういわれた鬼課長も、カッとなって「お前何を言っとる!」と言い、二人ともむっつりした顔で相手を睨み付けて、3分もそのままで対峙していました。 結局、鬼課長が何か気づいたようで、その学生の肩を抱いて「外で話そう」と言いました。しばらくしてから、二人とも何もなかったかのように戻ってきました。 鬼課長が外で何の話をしたかをいうと、実は鬼課長は学生にこんなことを言っていたのです。「俺は冗談を言っただけなのに、あんな口答えをして。みんなの前で俺の面子を潰さないでくれ。確かにあいつは頭が悪いけど、俺が採用したんだから、今だに悩みの種なんだよ。」 そう言われた学生は率直に「冗談であってもクビのことを容易に口にして欲しくはないです。」と鬼課長に言いました。 結局二人は再び仲直りをし、その後も鬼課長はその学生に仕返しなどはしませんでした。 というのも、その学生は仕事上申し分なく、日本語も上手だったからでした。何より鬼課長は仕事のできる人を辞めさせたりはしない人です。 彼の後任の課長がこの工場に来て初めて、学生達は気の小さい管理者が自分達に苦痛を感じさせるということを体験するのです。でもそれは後の話になります。鬼課長の物語はここまでです。
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