人間は豊かになるにつれて肉食の量が増えるようで、それにより生理上の変化も引き起こしてしまうようです。つまり「臭く」なってしまうのです! 汗臭い、脇臭い、吐息が臭い、足臭い、食べ物の匂い、オナラの匂い、酒臭い、それに防臭用の香水の匂い……。 人間は別々に行動すればまだいいのですが、でも同じ目的のために人間は常に同じ所に集まらなければなりません。 すると、人間が集まっている所はいろんな匂いが集まる所になってしまうのです。 その匂いは、特に良い名も思いつきませんから、とりあえず「交響臭」とでも呼ばせてもらいましょうか…。 電車に乗っている時、ドアの近くに立っていると、みんなの発する臭い息は、最も耐えがたいものです。朝の電車はまだいいのですが、夜の帰りの電車ときたら、みんな一日で溜め込んだ「臭気」(臭い息のこと、あるいは比喩で不平のことをいう場合もある)を今こそすべて発散してしまおうとするかのようです。
よく自分より背の高い人に彼の息を吸わされて、逃げ場のまったくない筆者は、その息に大変苦しめられたりします。ところが、それよりもっとひどい場合もあるんです。背が低いにもかかわらず、あお向けになって「ハーハー」して、まさに臭い息のし放題をする人もいるんですよ。しかもその威力は一層強力です。 しかし、ラッシュアワー真っ最中の電車の中では、どうしようもありません。せいぜい自分の体をちょっぴり後ろに引いて、その人との距離を置くしかないんです。 でも、時にはすがり付いてくる人もいるもんですから、もう仕方なく自分の首を最大限ねじまげて後ろを向かせるのです。ですから降りる頃にはもう首は本気で棒になったようです。早く手当てしないと、翌日の仕事にも影響してしまう! たまに、相手に自分の嫌味を読み取られることもありますが、その時の態度はさまざまです。相手が常識人なら、自分の顔を俯きにするのですが、常識を知らない人は平気でその姿勢を守り続けるのです。
夜の電車は酔っ払った人で一杯なので、酒臭い匂いが立ちこめています。たまに吐き出す人に出会うこともあります。僕は被害を防ぐために、電車に乗る前、缶ビールを一本飲むようになりました。これで僕の敏感な臭覚を麻痺することができますからね。つまり自分を保護するために、他人と一緒になるというのは一番の解決法なのです。 また電車の中の耐えがたいもう一つは、「オナラ」です。日本ではカレーは人気のある食べ物の一つです。カレーの主役は玉ねぎ。玉ねぎは人間の胃腸の健康に独特な働きがある食べ物です。玉ねぎを食べると、便秘や新陳代謝を改善できます。しかし玉ねぎ臭のオナラは臭くて耐えられないものの極みでしょう。 もし、周りで突然悪臭に見舞われたら、大抵の人は、黙ってじっとその匂いの攻撃に耐えつつ、疑わしい目つきで自分の周りの連中を見回すのです。でも普通そういう犯人探しは無駄の行為に過ぎないものです。 でも、その輪の中の人間は、みんな同じく他人に疑われる立場に立たされるので、とても気持ちいいといえるもんじゃありません。だってオナラすることはさておき、人から疑われることは一大事ですからね。
前に読んだ江戸時代の逸話を満載した本のことを思い出しました。その本の半分は江戸時代の武士と芸者たちが、いかに自分のオナラを隠すかという話を綴ったものだったのです。 当時の芸者や武士は、他人の前でオナラをしたことがバレたら、大変無礼なことと思われ、命を奪われることすらあったというのです。ですから彼らは、臨機応変に現場の材料でわざわざ再びオナラと同じような音を出す訳です。そうすることによって、彼らは自分の失態を隠したというのです。 その隠し方の絶妙さは、「劉備煮酒論英雄」(三国誌の中の一節)と比べても劣らないくらいでしょう! 普通、日本の大企業は社員食堂を設置しているのですが、中小企業はそれをもつ余裕がありません。ですから、お昼の時間、サラリーマンやOLたちは、近くのお店に食べに行くか、またはインスタント食品を買ってきて会社で食べるか、というふうに過ごすのです。 最近、中国国内の会社でもお弁当が流行っていると聞いています。なぜ現代人はみんなオフィスの昼食時の凄まじい匂いに耐えられるようになったのか、本当に不思議なことです。 お昼時のオフィスに立ち込める匂いに包まれると、一昔前の雑貨店を思い出させるほどです。その中にいる人間は、何ともいえない混沌とした匂いに次々と襲い掛かられて、お互い食べ物の匂いに神経を刺激され、仕事どころではなくなってしまうものです。
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