怒りっぽい工場長
僕がこの工場に入ってきたばかりのときです。他の人が、あの人がS工場長だと教えてくれました。そう聞いて僕は思わずSさんの方を何回も覗き見たものです。 高い頬骨、角張った顎、そして青ざめた顔と鷲のような目つき。その姿は見る人に、逞しくて頭の切れる人だという印象を与えます。 S工場長は怒りっぽい人でよく人を叱るので、従業員たちが彼を見ると、まるで鼠が猫に出遭ったようになるという噂も聞きました。 そしてしばらくして、この目で彼の威風を見ることになったのです。
そのとき、まだ工場が出来てから3、4年しかたっていなかったので、工場の生産量はそれほど多くありませんでした。 社員はまだ機械の性能を十分把握していないので、故障が起きて仕事が止まってしまうこともしばしばありました。そのため工場長も毎日工場にいる時間が長かったのです。 ある日、生産ラインにまた訳の分からない故障が起きてしまいました。すると突然、作業場とつながっている会議室の窓が開きました。 中から突然、白髪の頭が突き出てきて、「ばかやろう、何してるんだ!?」という声が聞こえたのです。 現場の社員たちはみんな大慌てで機械の修復に取り掛かったものです。
食事の時間になると現場の人手が足りなくなるので、オフィスからも、事務員やら総務課長、製造課長から品管課長、また工場長までもが、総出で手伝いにくるのです。 もちろんS工場長も手伝いに来るので、厳しい人ではあるけれど公平な人だと思いました。
また噂によりますと、製造現場の某パートさんはS工場長の恋人だそうです。彼女は白い顔、ちいさい鼻、ちいさい目をしていて、ご主人は県外で単身赴任中だそうです。 彼女は男性社員と冗談を言い合うのが好きなようです。S工場長が別のところに転勤になってしまうと、彼女はまた新任の班長と仲良くなったようで、二人はよく一緒に食事をしたりしていました。 S工場長は本社へマーケティング部長として赴任したそうです。彼がいなくなってからは、食事時間に現場にお手伝いにくる人もいなくなってしまいました。
義理人情に富む工場長
S工場長がここを離れたあと、まもなくD工場長が新しく就任しました。Dさんは皮膚の黒い、背の高い中年男性です。Dさんは顔つきから正直さが漂っているような人でした。しかし彼は一年ほどしか在任しませんでした。
彼は人を叱ったことがありませんでした。さらに、会社の飲み会があるたびに、現場の仕事で参加できなかった人のために、必ずお酒を残しておいてくれました。アルバイトでも待遇は一緒。さらに現場から休憩にきた人のために自らお酒を注いでくれることもありました。
ある日、僕はアルバイトの面接を受ける人をつれてきましたが、でもそのときオフィスには工場長一人しかいませんでした。「どうしましょうか?」と僕は彼に聞きましたが、一度も面接をしたことのない彼は、少し困った顔をしたのです。 しかたがなく、僕は普段の面接プロセスを彼に逐一説明したのです。僕の説明が終わると、人事課長がちょうど戻ってきました。 彼はせっかく学んだ面接プロセスを使うことができませんでした。ちょっと残念ですね。
新しい倉庫が完成したばかりの時でした。倉庫の中はまだ荷物を入れていないので、そこを借りて工場長は、従業員たちと飲み会を開きました。 お酒を飲みながら、僕は製造課長と世間話をしていました。課長は工場長が自分と同じ学校のOBで、大先輩だといっていましたが、でも話の中で妙に工場長を尊敬する意が欠けているような感じがしたのです。 課長の話を聞いていた人もみんな課長の本意を知ることができませんでした。
その後まもなく、本社の品質事故が世間に知られることになりました。事故を起こした工場はちょうどD工場長が前に担当した工場です。D工場長は会社に迷惑をかけないように自ら退社してしまいました。
しばらくたったある日、事務室の前を通ったとき、工場見学にきた人の中に、背広姿の背の高い男性がいて、僕と偶然目が合いました。その男性はなんと前任のD工場長でした。僕達はお互いすぐ相手が分かりました。
「やあ、ご苦労様。まだいたんですか?最近はどうですか。」 「おかげさまで、そちらは?」 「これは僕の新しい会社の見学団なんですよ。」……!
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