とある人物(仮に某氏とします)が友人の引越しを手伝っていた最中のことです。アパートの上から下まで荷物を一つ一つ下ろしていたとき、荷物があまりに多すぎたので、その友人は奥さんと子供に下で荷物を見張らせることにしました。
しばらくして一台の車がそこを通りかかりました。すると友人の旅行ケースは車にはねられて倒れてしまいました。奥さんが車の運転手に注意しに行こうとすると、車から二人の男性が降りてきて、あろうことかその中の一人が逆に荷物が彼らの行く手を邪魔したと責めたのです。
日本語の分からない友人は、相手が自分に謝っているのではないかと勘違いしてしまいました。二人の男性は、友人がなんの反応もしないことを見て、さらに勢いを増して汚い言葉を連発しました。それでも満足いかなかったようで、さらに「こいつが壊れたら俺が弁償してやるから!」といいながら、再び置きなおされた旅行ケースを蹴って倒したのです。
ちょうどそのシーンを上から降りてきた某氏が目にしました。某氏はすごく腹を立て、まっすぐに旅行ケースを倒した男性のところに行って彼を捕まえたのです。
二人はすぐさま形勢不利なことに気づき、早く逃げればよかったと後悔しました。一人の男性は喧嘩を止めようとして、慌てて二人の間に割り入り、何だかんだと弁解し始めました。
某氏は、相手に全く謝る気がないと見てとるや否や、自分の妻に警察を呼んでくるように言いつけたのです。二人の男性は相手が警察を呼ぼうとするのを見てびくついたようで、一人はそのまま某氏に取り押さえられましたが、もう一人は慌てて車で逃げてしまいました。
捕まった男性は仲間が逃げたことを見て自分も逃げようとしたのですが、某氏にきつく押さえられ、逃げられませんでした。
やがて車で逃げた男性は仲間がなかなか逃げてこないので、また鉄棒を持って戻ってきました。某氏は彼の鉄棒を避けながらその男性に近づき、同時に某氏の友人が、油断した隙に、彼の鉄棒を奪い取り、ついでに彼のお尻をポンと蹴ったのです。
男性はそのまま四つん這いになって地面に倒れました。某氏はその男性を殴っても問題は解決しないと思い、彼を押さえながら詫びさせました。
彼はこのときになってやっと「すみません、すみません!申し訳ないです。失礼しました!」と謝罪の言葉を口にしたのです。しかもそれだけではなく、男性は両手を地面につき土下座し始めたのです。
「自分が悪いと分かっているなら、こちらの損失を弁償してください。」と某氏はいいました。
「金はない!金なんかない!競馬で全部負けちゃったから。」と男性はいいながら急いで自分の財布の中身を某氏に見せました。
確かに彼の財布は空っぽだったので、某氏は「あなたは真面目に謝ってくれたから、今回は許してあげます。二度とここでわめき散らすんじゃない!」といい渡しました。
二人の男性はペコペコとうなずきました。しかしその日彼らの運は最悪だったのでしょう。ちょうどその時警察がやってきたのです。仕方なく某氏は彼らを警察に引き渡しました。
警察署で二人の男性は一所懸命説明しました。「彼はもう私達を許してくれました。お金も要らないといっていました。」と。
結局、警察は彼らに二度と当事者を報復したり邪魔したりしないように、という誓約書を作らせて彼らを釈放したのです。