日本の出版業界を一言で表現するとすれば、「原生林」という言葉よりふさわしいものはありません。
それはなぜでしょう?
僕の学校の近くに一軒の古本屋があります。売られている本は、半分がいわゆる写真集や、暇つぶしのためのマンガ、官能小説などです。
ところで、本屋の名前はなかなか優雅なもので、「夏目書房」といいます。もしかして、日本の文豪である夏目漱石がかつてこの古本屋に光臨したことがあるのでしょうか?
ときどきイヤなことがあったとき、気晴らしで、本屋、とくに古本屋に行くと、気持ちをすっきりさせることができます。
というのも、日本の出版業界はとても発達しており、その上「再販価格維持制度」の保護があるので、発行量の少ない本でも出版社が損をすることはありません。ですから毎年多くの新書が出され、その種類は実に豊富多彩だからです。
つまりお金さえあれば、なんでも出版してくれるのです。ですから、多くの日本人が自費で出版物をどんどん出しているわけです。
そのような本は、図書館では収蔵されないので、一部の関係者しか保有していません。売れ切れなかった分は著者が他人に贈ったりすることもあるようです。
写真集の例をあげましょう。とにかくたくさん出版されています。出版する人も多いし、買う人も多いのです。
有名になった女性なら、誰でも自分の写真集を出版することができます。中でも一部の人は、大器晩成で年を取ってから、やっと何らかの理由で有名になるようなことがあります。たとえば、人と喧嘩することが上手いことで有名になった、などです。
このような人は、ようやく人に知られるようになったので、金儲けのチャンスを見逃してはいかんということで、すぐ写真集を出すという商売に目をつけます。
それにせっかく写真を撮るなら、徹底的にやらなければなりません。なので、本人は普段の姿勢をすべて捨てて、煽情的なものを作ります。
そして、撮った写真を派手に製本すれば一丁あがり!です。鑑賞価値があるかどうかは別として、市場に出されたら買うお爺さんは少なくありません。世界って不思議なもんですね。
毎年の新書はあまりに多いし、その累積はさらに測りきれない膨大な量となります。巨大な図書館でも、すべての種類の本が収まっているところは殆どありません。
ですから、古本屋で思いがけず「宝」を見つける、なんていうことも良くあることなのです。僕もときどき古本屋で、面白い本を見つることがあります。ピンキリですけどね。
日本では新書は値引きすることは許されませんが、古本なら本屋が任意に価格をつけることができます。極めて安い値段で個人から古本を買い取り、その値段の3分の2とか、さらに高い価格で転売します。
ですから、古本の商売はなかなか良い商売です。ただ店の立地が商売繁盛のキーポイントとなっています。たとえば、大学の近くにある本屋は大概商売がうまくいくようです。
学期末に学生から不要な教科書を買い取って、新学期になると、またそれらの教科書を学生に売るわけです。本がこうして一回りすると、本屋さんのお財布は膨らみます。
学生は教科書を、まるで父親を殺した犯人のように嫌うようです。ですから売手の学生は、単位を手に入れたら、すぐ本を捨てたがるのです。
ただで他人にあげても惜しくないほど嫌いな訳だから、ましてお金を貰えるなんて、なんて良いことなのでしょう!
また買うほうからしても、単位を取るためにわざわざ新書を買うより古本のほうがずっと安いですから、嫌がる人がいるはずもありませんね。