A社は広告会社Bに、主力商品の中国市場向けのコマーシャルの制作を委託することにしました。
具体的な作業を担当するB社とA社の人は、毎日汗まみれになるほど仕事に取り組んで、ようやくその試作品を完成させました。
さっそくA社の人にチェックしてもらうために、試作品を提示しました。
A社では、この件に関与している部門は、あわせて4つもあります。それぞれ国際部、マーケティング部、経営企画部と広報部です。
それぞれの部門の責任者は、この試作品を審査し、意見を述べなければなりません。
試作品の具体的な制作作業は、主に国際部の人によって行われてきたので、国際部はもちろん否定的な発言はしません。
しかし、その他の部門の責任者たちは、業界人としての一面を見せなければならないし、自分の存在感もピーアルしなくてはならないので、もちろん否定的な意見を出してくるのです。
いずれにせよ、チームワークなわけですから、もちろん功はみんなで分かち合わなくてはいけないでしょうね!
経営企画部の部長がまず発言をしました。
「中国人は謙虚な言い方を好むようですから、われわれは自分の商品が良いということばかり言うのではなくて、最後のところで‘みな様のご意見をお待ちしております’という言葉を付け加えたほうが良いと思います。」
彼の話に対して、みんなは「なるほど、そうですね。」と頷きました。すると、同行している制作担当部員は、ノートに「コマーシャルのセリフに、みな様のご意見をお待ちしておりますと付け加えること。」と書き留めます。
次に、広報部の責任者の番です。彼はずっと国内の宣伝広報の仕事を担当してきた人物なので、試作品の中の企業ロゴ表現について、不適切な部分を何ヶ所か指摘しました。
それにコマーシャルの海外管理に関してもいくつか確認しました。さらに同業他社の小企業に模倣されることを防ぐために、コマーシャルの原版を絶対に外部に流出させないように注意をしろ、というようなことを言いました。
彼の意見は、専門家の忠言として評価されるでしょう。
最後はマーケティング部です。マーケティング部の部長は出張で欠席したため、課長が代わりに出席することになりました。3人の部長と同席して、この課長は一所懸命に知恵を絞り、自分の能力を見せようとしているようでした。
課長は厳かに口を開きました。
「僕はこのコマーシャルのモデルさんが、赤いチャイナドレスを着ていることがちょっと気になっています。中国から帰ってきた同僚の話によれば、赤いチャイナドレスを着る女性は、人々に不真面目な印象を与えてしまうそうです。ですから、モデルさんの服を他の色に変えてほしいんですけど。」
課長の発言を聞いて、国際部部長と担当部員は懸命に笑いを堪えています。でも、彼に発言させない訳にもいかないし、彼の意見を参考にしない訳にもいきません。
さもないと、さらにおかしな「ご意見」が出され、もっと大変なことになるでしょう。ほかの2人の部長は、中国の事情が分からないので、なるほどと彼の意見に一目置いた様子です。
彼らは国際部の制作担当部員に、課長の「ご意見」を必ず考慮してくださいと、言いおきました。
こうしてようやく試作品審査は通過しました。
その後、彼の話は会社の中で噂となり、一部の悪戯好きの社員は、こう言いました。
「不真面目な女性は、どんな色の服でも着ている訳ですよねぇ。じゃあ、真面目な女性は色のない服を着るんでしょうか?透け透けの服なんてかえって不真面目ですよねぇ。」