ある日バイト先に、某機関から、一通の書類が届きました。書類の裏面にはその機関の理事会の名簿が載せられています。
すべての名前の後ろには、必ずその人がかつて最高機関で就いていた、最高職が記入されています。実はそのかつての経歴こそ、重要なポイントなのです。日本では、そのような履歴の記入は、機関や企業にとって人の信頼感を獲得するための手段の一つなのです。
その真の意味は、「かつてこれほど偉かった人物が、今うちで勤めているんだから、うちは絶対に信用できるところですよ!」ということなのです。
バイト先の社長は、とても細かくその名簿を分析し、中から自分と面識のある、あるいは自分の友達と面識があるかもしれない人物を一人、二人ほど探しだし、そこから新しい「営業対象」を見つけ出そうとしていました。
「見縫挿針」(ちょっとした機械も見逃さないとの喩え)のように、会社の商品を宣伝したり、新しい協力相手を探したりするのは、社長としての基本的な資質です。
大体において、この会社はこれまでの間、社長のこうした経営努力に頼って、今の今まで生き延びてきたのです。昨今のような不景気の時代に、他人からお金をもらって、数十名の社員を養うことは、まさに至難の技なのです。
名簿を見ていた社長は、急に怒り出しました。「なんだこいつ、ここは間違ってるぞ!」。
僕が、社長の指さしたところを見てみると、そこには「×××(もと建設省感冒××推進主任研究員)」と、はっきり書いてあります。
「あれ!?この‘感冒’というのは、‘官房’の入力ミスじゃないか?」――。社長と二人で思わずどっと笑ってしまいました。
日本語の「感冒」は、中国の「感冒」(風邪を引く)と意味がまったく同じで、ただ日常会話ではあまり使われない書き言葉なのです。
このミスはきっとそそっかしい秘書の傑作でしょう。
パソコンの普及につれて、文字処理はだいぶ便利になりました。ただ、日本語も中国語も、英語のように直接入力ではなく、変換というステップ(手続き)が必要です。文字変換するとき、よくうっかりして人を笑わせる変換ミスを犯してしまうものです。
とくに、かつて使われていた古い単語は、新しいパソコンでは必ずしも出てくるわけではなく、たまに他人のパソコンで作業するときなど、それまで自分の慣れた作業環境が変わったため、ミスを犯してもなかなか気づかない、ということがよくあるものです。
ゼミでのある発表は、まさにその通りでした。その発表の前、僕は「農商務省」をうっかりして「脳漿無償」と間違って入力してしまったのです。
そのまま発表のときそこを見たら、あまりにびっくりしたもので、しばらく声を出せなくなってしまったくらいです。みんなにどっと笑われてしまいました。