不景気の日々が続く中、ある日、新聞の中に挟まれた黒刷りのチラシが一枚、目に飛び込んできました。開いてみると、黒地の真中に赤く目立つタイトルが書かれています。
なんとそれは「廃業宣言」でした。タイトルのほかに、灰色の文字が一面を埋め尽くしていて、このチラシのデザインだけで、業主の絶望した心情をなんと絶妙に描き出していることでしょう!
さらに灰色の文字を読んでみると、内容は某紳士服会社が倒産したというお知らせでした。本文はこのように書いてあります。
『廃業宣言。』
『――これ以上継続して営業が維持できないと判断し、創業45年の歴史を今日をもって閉じさせていただきます。
――これは私たちが唯一出来ることでありまして、お客様に対する最後のお知らせでもあります。
突然なことではありますが……!長い間ご愛顧をいただいたお客様に心からの感謝を申し上げます!
「××紳士服株式会社」は、様々な原因により、創業以来45年の歴史に今日をもって終止符を打つことに自主決定させていただきました。
この業界からすべての業務を撤退し、完全廃業させていただきます。このような残念な結果になることを、長い間、弊社に特別なご愛顧やご支持をいただいた皆様に深くお詫びいたします。
45年の歴史を振り返るのは忍びないことですが、ここまできた上は、最後の力を尽くしたいと思います。この不景気の時代に活力を注ぐために、「最終販売(閉店バーゲン)」を行うことを決定いたしました。今回の活動を通して私たちの最後の熱意を皆様に捧げたいと思っております。
××紳士服株式会社理事長
売り尽くし!最後まで売り尽くすのです。皆様にとって本当にお買い得です!
今回は営利販売ではありません。今回、我々が完全撤退するための、どうしても手放したくない「さよなら売り尽くしバーゲン」です!』
ここまで読んでから、ようやくこのチラシが単なる広告だということが分かったのです。閉店セールの広告です。
何気なくそのチラシをめくってみると、そこには本格的な商品広告が出てきました。
各種の商品の写真と値段が一面に掲載されたチラシです。ただ今度は鮮やかな赤色に変わりました。値段は確かに安いです。
この広告をみたその日、仕事を終えてから行ってみようかなと思ったのですが、結局忘れてしまいました。
1ヶ月後、偶然その店の前を通ったのですが、思いがけずその店は相変わらずやっていました。
前は「改装バーゲン」の広告をよく目にしたのですが、閉店バーゲンの広告は初めて見ました。そういうような広告の作り方が、今の流行なのでしょうか?
まあ、あのお店は何日か後に本当に閉まるかもしれないですよ?この世に不変なことなんて有り得ないですからね!