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女将さん降格記

作者:石成金  来源:贯通论坛   更新:2004-7-6 8:07:00  点击:  切换到繁體中文

 

 

焼き鳥屋さん 日本にきた当初、友達に誘われて、彼女のお店に食事に行ったことがあります。
 そのお店は、東京郊外のとある小都市の駅前にあります。店の主な料理は、焼き鳥の串焼きです。日本では、こういったお店は「串焼き屋」や「焼き鳥屋」などと呼ばれています。
 彼女、文昌妹が最初に僕に与えたイメージは、バリバリ働く居酒屋の女将さんでした。
 この店は、典型的な夫婦の店です。ご主人は厨房担当、奥さんは接客担当です。店の商売はとても繁盛していました。
 
 友達の話によると、文さんは国際結婚紹介所を通じて台湾から嫁いできたお嫁さんだそうです。
 ご主人は、始めて見たとき、思わず広東料理の特徴である、「生猛鮮活」(普通は生きている海鮮を表現する言葉で、生きが良くぴちぴちしている様子を言います。ここでは冗談っぽく人の元気さを表しています。)という言葉を思い出させるほど元気な男性でした。
 身長は190センチぐらいで、顔はひげもじゃ、さすが逞しい男という感じです。彼は無口で、ひたすら厨房で料理をしていて、誰から見てもおとなしく、従順なタイプです。
 駅に行く途中、よく忙しく仕事をしている元気な文さんを見かけたものです。文さんは、いつも僕のことを「お兄さん」と呼んでくれて、彼女のその明るい表情から、今の生活にとても満足している様子が覗えたのです。
 
 時はあっという間に、何年も流れていきました。文さんの二人の子供さんは、すくすくと育っています。長女は小学5年生に進学し、長男も小学1年生になりました。
 この間、僕はちょこちょこ文さんの家庭のことを耳にしてきたのです。文さん一家を知った当初、僕はご主人がなぜ国際結婚を選んだのかと、不思議に思っていた時もありました。
 なぜなら、ご主人の実家は、とびきりの金持ちではないけれど、お店やマイホームなどを有していて、ご主人本人もかなりハンサムなので、この家の条件なら、彼のお嫁さんになりたいという人は、少なくないはずだと思っていたからです。しかし、なぜご主人は日本人女性に恵まれなかったのでしょう?
 時が経つにつれて、僕は少しずつ、日本の若者の結婚相手を選ぶ基準を理解し、やっとその疑問を解くことが出来たのです。
 
 文さんのご主人は、一人っ子です。それは彼が将来、ご両親から家業を継承する人だということを意味しています。本来は家業を継承することは喜ばしいことですが、しかし、ご主人の場合は、家業が実に小さな店なので、嫁いできたお嫁さんは、家事と店の仕事という二重労働をしなければならないということが、まず予想されてしまうのです。
 これは、現代の若者が要求する「モダンな生活」とはまったく無縁です。少しの苦労ならまだしも、さらにこの家は母子家庭で、つまり家には死ぬまで財産を握り締める厳しい姑が待っているのです。
 これは、もっとも日本の娘に敬遠される点であり、嫁が苦労する上、未亡人の姑にいじめられてしまうという危険性も潜んでいることを意味しているのです。日本の現代の若い女性にとって、最も受け入れられないのは、姑と一緒に生活することです。
 また、文さんのご主人は上述の2点のほかに、本人が高卒の学歴しかもっていない人なので、家業を放棄したら自力でうまく生きていく手段がほとんど無い、という欠点もあるのです。
 ですから、文さんのご主人は、日本の女性と結婚することができなかったのでしょう。
 
 文さんがこの家の嫁になった当初、そのときに限っては、この家庭は円満そのものに見えました。周りの人は、おばあさんは厳しい人だけど、お嫁さんとお孫さんには優しいだろうと、みんな自分の偏見を疑ったものです。
 ある時、台湾や中国出身のお母さん達が、子供に中国語を習わせるために、市内の公民館で、子供達の中国語クラスを開いたのです。文さんも二人の子供をそのクラスに入れました。
 すると他のママ達は、文さんの子供さんがおばあさんの影響を受けて、お母さんと接する態度がとてもぶっきらぼうであるということに、だんだんと気付き始めたのです。
 みんなの前で、子供達はおばあさんが何々と言ったなど、そればかり言っていました。やはり、文さんのそれまでの生活は、よそから見たように順調ではなかったようです。
 最初の頃のみんなの心配は、まったく理にかなっていなかったという訳でもないようです。
 
 とうとう、文さんの姑に対する我慢も限界になり、姑との衝突が表面化してきました。衝突の原因は、姑が文さんの経営方法に不満をもち、店のアルバイトを首にして、すべての仕事を文さん一人にやらせると言い出したことにあるようです。文さんが少しばかり反論すると、姑は大変頭にきて、息子に文さんを思い切り殴らせたそうです。
 傷つけられた文さんは、子供を連れて家を出てしまったようです。実情がどうだったか、よそ者の僕には分かりませんが、文さんが別の部屋を借りて子供達と一緒に住んでいることは事実です。
 文さんのアパートと、ご主人の家との間には鉄道が走っていて、それを境にしてそれぞれ二つの地区に分けられています。それだけで、子供達は転校しなければならないことになってしまいました。
 家出をした文さんは、夫から少しも経済援助を受けていなかったので、親子三人の生活のために、よその所でアルバイトを始めなければなりませんでした。
 近所の人達は、それではあまりにもひどいのではないかと思い、みんなで文さんに、子供の養育費を要求するように勧めたのですが、文さんは、いくら苦労しても、養育費を要求しませんでした。みんなは、彼女はとんだお人よしだと思ったものです。
 
 こうなってしまうともう、ご主人親子は顔を上げて近所を歩くことはできないでしょう。結局、文さんは再び主人のお店で働くことになったのです。
 その後、お店の経営はすべて主人親子に握られ、文さんはただのパートさんになってしまったようです。こうして、周りに住んでいる中国系の人々は、母子密着の怖さと、「猛男」(逞しい男のこと)の哀れな人生を、まざまざと実感したのです。
 
 今、僕は相変わらず毎日その店の前を通るのですが、文さんに会うことは随分少なくなりました。たまに彼女に会うことがあれば、お互い昔のように親しい挨拶を交わすのですが、ただ、彼女の言葉と表情の中には、昔のような自信と満足感はなくなり、逆に前途に対する心配や、幾分の憂鬱を感じさせるのです。


 

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