■ 熱心なお医者さん
この慢性病センターでは小河先生が担当になると、患者を回復させるためのいろいろな方法を考え出した。
今回、僕は滅多に無い病原菌の感染によって下痢をおこし、この病院に入院した。この菌はとても症例が少なく、治療用の薬はあまりないという。唯一の治療法は、ある抗生物質を注射するしかないとのことだった。
点滴を一週間打ったのに、血液中の病原菌は少しも減らなかった。つまり、その医療方案は効果がほとんどなかったのである。
小河先生が症状を研究し、ほかの方案を作ってきた。僕自身の抵抗力を増強させ、病菌を消滅させるつもりだという。たとえば、輸入したグロブリンを使うといった、抵抗力を早めに高める方法があるが、その方法をとると、医療保険を使うことができない。もし標準を超えて薬を使えば、患者の負担を増やさないように、最終的に増やした部分の費用は、病院が負担しなければならない。
小河先生は大変情熱的な人で、僕に一本10万円の輸入グロブリンを三本注射することを密かに決心した。医療費用の規定によって、医療保険を払う標準は、一ヶ月一本ほどだという。それ以上の量が使われれば、費用は病院が負担しなければならない。
しかし、このグロブリンを使ってみたら、奇跡的な効果を発し、僅か数日後、その病菌は血液から徹底的に除かれた。僕は喜んで退院した。小河先生は、標準を超えて薬を使ったが、効果が著しい、諒とすべき事情だ、と思ったようだった。病院の方も何も言えないだろう。
しかし、誰も知らないうちに、意外なことが起こった。退院後三日目の夜、突然、僕は肺炎になった。熱が40度くらいになったので、もう一回入院した。
僕は心中知っている――三尺にも達する厚い氷は一日の寒さでできたものではない。長い間をかけて病気が進行してきたこと、僕の抵抗力が弱いこと、これらは仕方がないことだ。
でも、小河先生の気持ちはぜんぜん違った。前の方法は小河先生が一人で決めたが、いま、こうして患者が戻ってきてしまったので、お金を無駄に使ったのに効果がなかったという評価は避けられないだろう。
だから、小河先生の表情はとても緊張していた。詳しく症状を聞き、病棟回診の回数も前より多くなった。幸い、すぐに入院したので、翌朝、僕の熱は下がり、食欲も出て、血液の報告も正常になった。五日目、僕はまた退院した。そのとき、小河先生は標準を超えて薬を使ったことについて、まだ心配していた。
■ 意外
病室に、患者が八人、入院していた。毎朝の「朝礼」は、血圧、体温と体重の計測だ。
ある日、太った看護婦さんが当番になった。その看護婦さんは大雑把な人で、力がある。しかし、その割には、動作は敏捷である。
彼女は体重計を戸の前に置いて、みんな自分ではかった?と、体温計をみんなに配布した。最後に、一人づつ患者の血圧を測った。
一番奥の、すぐ退院する予定の老婦人は、いちばん最初に、戸の前に行き、「お姉さん、37.2だ。」と言った。
みんなすぐその老婦人をみて、看護婦さんは「また熱があるの?」と疑って聞いた。
「いや、体温じゃなくて、体重だよ。」老婦人がすぐ説明した。
看護婦さんは、ちょっといたずらされたと思った。みんなが意味を悟ってニヤリとした。